脳卒中について(各論)
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各論1:オホーツク圏でも受けれる脳卒中医療とは?
前回の総論では、脳卒中について、病気の種類や症状、治療、予防、リハビリテーションについて簡単に説明しました。今回は、この地域で受けることができる脳卒中医療についてです。オホーツク圏でも受けれる脳卒中医療とは?と言うと、逆に受けれない脳卒中医療があるのか?と不安になるかもしれませんが、そんなことはありません。
現在の医療は、オホーツク圏では役割分担をしていて、1つの病院で、急性期の緊急手術から退院までのリハビリを行うのではなく、それぞれの役割に特化して効率の良い医療が受けれる仕組みになっています。滝上町には脳外科や脳卒中の専門医はいませんが、適切な搬送により、滝上町に住んでいても、北見や旭川と同じ医療を受けることができます。日本では、脳梗塞の場合、症状が出てから治療開始までの時間が、4.5時間以内なら詰まった血管の血栓を溶かすt-PAというお薬を点滴で使うことができますが、すべての症例で血栓が溶けて再開通し、症状が改善するとは限らず、再開通率は35%程度です。さらに、病態にもよりますが、詰まった血栓を回収する血管内治療も可能です。しかし、これらはオホーツク圏のすべての病院でできるわけではなく、北見赤十字病院に集約して行っています。北見の住民と滝上町の住民が同じ医療が受けれると言いましたが、滝上町の住民は救急車での搬送では約1時間余計にかかるかもしれません。従って、症状が出たらすぐに躊躇なく救急車を呼ぶことが必要です。脳卒中の急性期は時間との闘いです。症状については次号で説明します。
これまでの統計では、救急搬送時間は、救命救急士の適切な脳卒中トリアージでの専門病院への直接搬送によって大きく短縮されましたが、症状が出てから救急車を呼ぶまでの時間が短縮されず時間を失っています。専門病院に搬入されてからは、脳梗塞の超急性期治療は、日本の標準的治療としてこの地域でもできていますが、時間切れになってしまうことがあるのも事実です。また、脳出血やくも膜下出血についても、手術などを含めた急性期治療は専門病院で日本の標準的な治療として行われています。
いずれにしても脳卒中は命にかかわる病気です。重症化する前になるべく早く脳卒中専門病院に搬入してもらうことが、高度な脳卒中医療を受けるためには必要です。
(日本脳卒中協会ホームページより)
各論2:脳卒中が疑われる症状とは?
前号では、滝上町で日本の標準的な脳卒中医療を受けるためには、症状が出たら躊躇なくなるべく早く救急車を呼ぶこと、特に脳梗塞は時間との闘いであると説明しました。では、どのような症状が脳卒中の症状なのでしょうか?
脳卒中の症状は様々ですが、共通している特徴は、突然生じることです。大部分が症状の始まりを、「何時何分から」というように特定できます。
脳卒中には、脳へ血液を送る血管がつまる脳梗塞、脳の中で細い血管が破綻する脳出血、そして、脳の表面の太い血管の一部がふくらんだコブ、つまり動脈瘤が破裂して脳の表面に出血が拡がるくも膜下出血があります。脳梗塞と脳出血は、脳の一部の働きを突然失うため、症状がほぼ共通しており、くも膜下出血の症状とは異なります。
まず、脳梗塞と脳出血の代表的症状について、説明します。
最も多いのは片麻痺で、顔の右か左の半分、片方の手・足が突然に動かなくなります。同じ部位の感覚が鈍くなったり、しびれが生じたりすることもあります。両側の指先が徐々に、あるいは時々、しびれるような場合は、脳卒中の症状ではありません。
次に多いのは、言語障害です。すなわち、突然、呂律が回らなくなったり、言葉が出なくなったり、相手の言葉を理解できなくなります。
また、失調と言って、手足の麻痺はないのに、急に足元がふらついて、立ったり、歩いたりできなることもあり、めまいのように感じることもあります。
目の症状が生じることもあります。例えば、突然に片目の視力がなくなったり、視野の一部が見えなくなったり、物が二重に見えたりします。
これらの症状に加えて、意識状態が悪くなることもあります。軽い場合は、なんとなくぼんやりしている、という印象ですが、重症の場合は、強く呼びかけたり、つねったりしても、目を閉じたままで反応がありません。
次に、くも膜下出血の症状ですが、今までに経験したことのない突然の激しい頭痛が特徴的です。重症の場合は意識障害も生じます。頭痛の強さは発症時にピークに達し、その後も痛みは持続します。同時に、嘔吐することもしばしばです。「最近なんとなく頭が痛い」、といったように、開始時刻を特定できない場合は、くも膜下出血ではないでしょう。
脳出血の場合も頭痛を伴うことがありますが、その場合は、片麻痺、言語障害、失調、視覚障害などを伴っています。
以上、脳卒中の症状について、簡単に説明致しました。脳卒中が疑われる場合は、救急車を呼ぶなどして、一刻も早く、専門的な病院を受診してください。
まとめ
脳卒中では以下のような症状が突然起こります。
- 片方の手足・顔半分の麻痺・しびれが起こる
(手足のみ、顔のみの場合もあります) - ロレツが回らない、言葉が出ない、他人の言うことが理解できない
- 力はあるのに、立てない、歩けない、フラフラする
- 片方の目が見えない、物が二つに見える、視野の半分が欠ける
- 経験したことのない激しい頭痛がする
各論3:みんなができる脳卒中の予防とは?
この中で、まず脳卒中の主要危険因子である高血圧、糖尿病、不整脈(心房細動)、喫煙、過度の飲酒、高コレステロール血症に対する注意を喚起し、次に、高血圧・糖尿病・高コレステロール血症を予防するための塩分・脂肪分控えめの食事、適度な運動、肥満を避けることを勧め、最後に、万が一発症した場合の救急 対応の必要性を謳っています。
第1~9条で取り上げたのは主な危険因子で、これら以外の危険因子もあり、その中には年齢など改善ができないものもあります。しかしながら、主な危険因子に注意することで、脳卒中を起こす危険を低下させることができますので、参考にしていただければと思います。
- 手始めに 高血圧から 治しましょう
- 糖尿病 放っておいたら 悔い残る
- 不整脈 見つかり次第 すぐ受診
- 予防には たばこを止める 意志を持て
- アルコール 控えめは薬 過ぎれば毒
- 高すぎる コレステロールも 見逃すな
- お食事の 塩分・脂肪 控えめに
- 体力に 合った運動 続けよう
- 万病の 引き金になる 太りすぎ
- 脳卒中 起きたらすぐに 病院へ
喫煙や飲酒については、喫煙は脳梗塞・クモ膜下出血の危険因子ですのでやはり禁煙が望ましいです。また受動喫煙も脳卒中の危険因子になりますので、受動喫煙を回避してください。飲酒は大量飲酒の習慣が発症リスクを高めるのですが、少量から中等量の飲酒(アルコール1〜149mg/週、ビール350mLを1本として毎週6本程度が目安)では脳卒中の発症率が低下することが知られています。450mg/週以上の大量飲酒では全脳卒中の発症率は68%増加し、とくにクモ膜下出血が急増します。脳卒中予防のためには飲酒は中等量にとどめましょう。いずれにしても脳卒中の危険因子の多くは生活習慣病です。生活習慣病があれば、それを治療することで、脳卒中の予防は可能です。従って、定期健康診断などを上手に活用しましょう。
各論4 脳卒中になってしまったらどうするか?
脳卒中の症状か自信がない、症状の程度が軽い、すぐに治った、夜中だから……等で受診をためらう方が多くおられます。でも正確な診断は医師でも困難なことがあり、ためらって手遅れになるよりも、もし外れていたらその方がラッキーと考えて直ちに救急車を呼んでください。発症からの時間で治療方針が変わることもあるので発症時刻も重要です。
症状が出現したら ― すぐに救急車を呼ぶ
周囲の人が脳卒中と疑われるような発作症状を起こした場合は、あわてずおちついて行動することが大切です。すぐに救急車を呼んで専門医のいる病院へ搬送してもらうことが大切です。「救急」であることを伝え、現在地や患者さんの性別、年齢、意識の状態や症状などを説明します。いずれにしても「しばらく様子を見よう」というのは禁物です。一刻も早く専門の医療機関を受診するようにしてください。
救急車が来るまでに ― 適切な場所に寝かせる。症状をメモしておく。
交通量の多いところや直射日光の当たる場所で発作を起こした場合は、救急車が到着するまでの間に安全で日陰の多い場所に移します。患者さんに意識 があっても、自分で立たせると、症状が悪化する危険性があるため、避けてください。そして衣服やベルトを緩めます。吐き気がある場合は、あお向けではなく、横向きに寝かせると、吐いた物で気道がふさがれる心配もありません。また症状をメモしておくと、受診先の医師などに、要領よく説明できるでしょう。
周囲の人たちがするべきこと
1 適切な場所に移動させる
布団などに患者さんを乗せて、救急隊が応急処置をしやすく、運びやすい場所に移動させる。野外の場合は、風通しの良い日影へ運ぶ。意識があっても自分で立たせない。
患者さんが歩くと、脳血流量が減少し、症状が悪化する可能性があるため、歩かせない
2 静かに寝かせて衣服を緩める
静かに寝かせて、ネクタイ、ベルト、腕時計など、体を締め付けているものを外し、襟元やウエストを緩める。眼鏡や入れ歯なども外しておく。
呼吸が苦しそうなときは、巻いたタオルや座布団などを肩の下に入れる。気道をふさぐので頭の下に枕をいれないこと。
吐きそうな場合は、麻痺がある側を上にして、体ごと横向きにする。こうすると、吐いた物が気道に詰まるのを防ぐことができる。
3 患者の情報
ご家族であれば、普段、内服しているお薬やお薬手帳を用意しておく。
脳卒中発症後、なるべく早く脳卒中専門病院に搬送され、なるべく早く急性期医療を受けることができれば、軽症の患者さんは軽症で済み、約2週間の入院治療で直接自宅退院できること多いです。仮に重症であっても回復期のリハビリ病院で専門的なリハビリテーション医療を受ければ、その後自宅退院でき、社会復帰できる可能性があります。自宅退院できない場合は療養施設や介護福祉施設に転院し、介護サービスをうける準備をして自宅退院できることもあります。
利用できる支援・制度(1)
自宅退院できても支援や介護が必要になる場合には患者さんやご家族の負担を軽減できるように上図、下図のような様々なサービスを受けることができます。患者さんやご家族が孤立しないように様々なサービスを有効に活用しましょう。詳しくは地域の包括支援センターなどにご相談ください。
利用できる支援・制度(2)
オホーツク脳卒中研究会
各論5 脳卒中再発予防と機能維持はどうしたらよいか?
脳卒中は再発しやすい病気です。一度脳梗塞を起こした患者さんは再発しやすく、発症後1年で10%、5年で35%、10年で50%の人が再発すると言われています。脳卒中の治療後も生活習慣の修正に努め、医師から処方された再発予防薬を正しく使いましょう。また、1年に1一度は専門医を受診し、血液検査や必要に応じて頭部CT,MRIなどの検査を受け、動脈硬化の進行や新たな脳梗塞の兆候などをチェックしましょう。
脳卒中の発症には、日常の生活習慣が大きくかかわっています。再発を防ぐためには、日ごろから以下のようなことを心がけましょう。
脳卒中を起こした患者さんは、多くの場合、後遺症として身体の片側がマヒする、言葉が出にくくなる、食べ物や飲み物がうまく飲み込めなくなるなど、何らかの後遺症が残ります。後遺症の症状や程度は様々で、ダメージを受けた脳の部位や程度によって違います。
後遺症は、早期から適切なリハビリテーション(理学療法、作業療法、言語療法)を行えば、軽減することができます。
リハビリテーションを適切に行って、後遺症を克服し、再び自立した生活を送れるようになったり、社会復帰した患者さんはたくさんいます。脳卒中のリハビリテーションには3つの病期(急性期、回復期、維持期・生活期)があります。
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急性期 |
回復期 |
生活期・維持期 |
時期 |
発症から1~3週間 |
1~3週間から3~6か月 |
3~6か月以降 |
治療施設 |
急性期病院 |
リハビリテーション専門病院 |
リハビリテーション専門病院 |
リハビリテーションのポイント |
廃用症候群の予防 |
機能回復訓練 |
機能維持 |
リハビリテーションは、病院の理学療法士、作業療法士、言語聴覚士といった専門のスタッフによって行われます。リハビリテーションの効果は個人差がありますが、効果がなくてもあきらめず根気よく続けることが重要です。
日常生活の工夫
退院後、自立した生活を行うためには、生活環境を整えることも大切です。
住宅を改造する、麻痺などがある人のために使いやすく工夫されている道具や食器などを利用するなど、患者さんの状態に合わせて工夫しましょう。
介護保険の申請を早くすることも必要です。
段差をなくす 手すりを付ける
部屋のスペースを広くする リフトなどを取り付け、使い方を覚える
福祉サービス
福祉サービスを利用できる場合もあります。
詳しくはお住まいの市町村の福祉窓口までお尋ねください。
お問い合わせ
オホーツク脳卒中研究会へのお問い合わせ先
オホーツク脳卒中研究会 理事長 木村 輝雄
teruokimura4@gmail.com